日本霊異記 上巻 電の憙を得て、生ましめし子の強力在りし縁 第三 後半
みなさんこんにちは、文です。
大変申し訳ございません。しばらくログインができなくなっており更新が叶いませんでした……。
後半を残して突然消えてしまったので悶々としていました。
この空白期間を取り戻すべく、張り切って更新していきたいと思います!
さて今回は、上巻第三縁の後半にあたる場面です。
ayanohakotonoha.hatenablog.com
↑前半の記事はここからどうぞ!
雷神によって農夫にできた子どもの強力譚でしたね。つづきを読んでいきましょう!
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⑤然る後に少子、元興寺の童子と作りき。時の其の寺の鐘堂に、夜別に死ぬ。彼の童子見て、衆僧に白して言はく、「我此の死ぬる災を止めむ」といふ。衆僧聴許(ゆる)しつ。童子、鐘堂の四つの角に四つの燈を置き、儲けたる四人に言ひ教えて、「我鬼を捉へむ時には、倶に燈の覆へる蓋を開け」といふ。然して鐘堂の戸の本に居り。鬼半夜許に来れり。童子を佇(のぞ)きて視て退く。鬼、亦後夜の時に来り入る。即ち鬼の頭髪を捉へて別に引く。鬼は外より悲喜、童子は内より引く。彼の儲けし四人、慌(ほ)れ迷ひて、蓋を開くこと得ず。童子、四角別に鬼を引きて依り、燈の蓋を開く。晨朝(じんてう)の時に至りて、鬼己の頭髪を引き剥げらえて逃げたり。
⑥明くる日、彼の鬼の血を尋ね求めて往けば、其の寺の悪しき奴を埋め立てし衢に至る。即ち知りぬ、彼の悪しき奴の霊鬼なりけりといふことを。頭髪は今に元興寺に在りて財とせり。
⑦然る後に、其の童子、優婆塞と作りて、猶し元興寺に住みき。其の寺の作田に水を引きき。諸王等妨げて水を入れず。田焼くる時に、優婆塞言はく、「吾、田の水を引かむ」といふ。衆僧聴(ゆる)す。故に、十人して、荷(も)つべき鋤柄を作りて持たしむ。優婆塞、彼の鋤柄を持ち、杖を撞きて往き、水門の水口に立てて居(す)う。諸王等、鋤柄を引き棄て、水門の口を塞ぎて寺の田に入れず。優婆塞、亦百たり余り引きの石を取りて、水門を塞ぎ、寺の田に入る。王等、優婆塞の力を恐りて終に犯さずして、故、寺の田渇れずして能く得たり。故に、寺の衆僧聴して得度し、出家せしめ、名は道場法師と号ぇき。後の世の人の伝へて謂へらく、「元興寺の道場法師、強き力多有り」といふは、是れなり。当に是に知れ、誠に先の世に強く能き縁を修めて感ぜる力なりといふことを。是れ日本国の奇しき事なり。
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いかがでしたか? 今回は前半の力比べとは全く違う話になっていますね。
⑤その後(力比べの後)、子どもは元興寺の童子となりました。ちょうどその頃、寺の鐘堂で夜ごとに人が死ぬという事件が起きていました。童子はその事件を解決するといいます。
童子は堂の四隅に四つの燈(ランプ)を置き待機させている者たちに「我鬼を捉へむ時には、倶に燈の覆へる蓋を開け」といいます。この時すでに、童子はこの事件の犯人が鬼であるということをわかっているようですね。
真夜中に、ついに鬼がやってきます。童子は鬼に飛びついて髪の毛をひっつかまえました。「鬼は外より悲喜、童子は内より引く。」からわかるように、鬼が外に出ようとしたら童子が内側に引き戻すというやりとりが繰り広げられます。
そんな中、四人の者は怖気づいてしまい動けません。あれほど「燈の覆へる蓋を開け」と言ったにもかかわらず、です。そこで童子は、なんと鬼を引きずりながら四隅を回り、四つの蓋を全て開けてしまうのでした。鬼は髪の毛を引き抜かれて逃げていきます。
⑥翌日、鬼の血(血が出るほど引き抜かれていたのですね……)を辿っていくと、「寺の悪しき奴」の墓地のようなところに到着します。
*悪しき奴=謀反を起こして残虐な行為をする悪人。
つまり鬼は、「元興寺に謀反を起こした悪人たちの霊が顕在化したもの」であったということです。
⑦その後、童子は元興寺の修行者になっていました。寺で作っていた田に引き入れた水を、朝廷の王たちが嫌がらせでせき止めます。当然、水田が干上がりそうになります。「焼ける」には「日照りで作物が枯れしぼむ」という意味もあります。
修行者は「田んぼに水を引き入れましょう」と名乗り上げます。
そこで修行者は、「十人して、荷つべき鋤柄」(十人でやっと持てる鋤)を作って水口のところに立てておきました。しかし朝廷の者たちはそれを投げ捨て、また水口を塞ぎました。
そこで修行者は、「百たり余り引きの石」で水口を塞ぎました。王たちは、その怪力を恐れて二度と水門に嫌がらせをしなくなります。それにより水田は守られました。
寺の僧たちは修行者を出家させ、道場法師と名付けます。「元興寺の道場法師、強き力多有り」という言い伝えがあるのはこういう背景があるのである、と話は締められます。そして彼が怪力を身に付けたのは、「先の世に強く能き縁を修めて感ぜる力なり」つまり、前世で善い行いを修めたからだと筆者がまとめます。
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雷神の子供のお話は、道場法師の誕生譚だったのですね。道場法師とは、架空の僧であるとも言われていますが一種の伝説となっています。他にも『水鏡』などに彼の説話が載っています。
また『日本国語大辞典』によると、「大太法師」の祖であるともいわれているようです。「大太法師」は伝説の巨人で、富士山を作ったり足跡が池になったりという、とんでもない逸話が残っています。『もののけ姫』の「デイダラボッチ」と同じようなものと考えてよいかと思います。
この話でも、日本霊異記の根底にある”前世の業が現世に影響を与える”という筋が通っていますね。次回以降の話でもこの筋が通っているのか、注目しながら読んでいきましょう。
それではまた次回お会いしましょう!