日本霊異記 上巻 三宝を信敬したてまつりて現報を得し縁 第五 前編
みなさんこんにちは! 文です。
GWも半分以上が終わってしまいましたね。今年は外出自粛の影響もあって、例年以上にグータラする日々が続いています(笑)
でもそんな時こそ!読書ですよね!
現代小説も魅力的ですが、日本霊異記のような古典の世界にも触れていきましょう。
本日は第五話です。本話には「三宝」という言葉が出てきます。これについては後ほど解説しますね。
本話もかなり長いので前・中・後編に分かれています。それではさっそく読んでいきましょう!
本文
①大花位大部屋栖野古の連の公は、紀伊国名草郡の宇治の大伴の連等が先祖なりき。天年澄清にして、三宝を重尊しき。
②本記を案ふるに曰はく、「敏達天皇のみ代に、和泉国の海中にして楽器の音声有りき。笛と筝と琴と箜篌(くご)等の声に如れり。或るときには電の振ひ動けるが如し。昼は鳴り夜は耀き、東を指して流る。大部屋栖古の連の公聞きて奏す。天皇嘿然(もだあ)りて信(まこと)としたまはず。さらに皇后に奏す。聞しめして連の公に詔りて曰はく、『汝往きて看よ』とのたまふ。詔を奉りて往きて看るときに、実に聞きしが如くに霹靂(かみとけのき)に当りし楠有りき。還り上りて奏さく、『高脚の浜に泊つ。今、屋栖伏して願はくは仏像を造るべし』とまうす。皇后詔りたまはく、『願ふ所に依るべし』とのたまふ。
③連の公、詔を奉りて大きに喜び、嶋の大臣に告げて詔命を伝ふ。大臣も亦喜び、池辺直氷田を請けて仏を雕(ゑ)り、菩薩三軀(はしら)のみ像を造り、豊浦の堂に居きて、諸人仰敬す。然るに物部弓削守屋の大連の公、皇后に奏して曰さく、『凡そ仏の像は国の内に置くべからず。猶し遠く退けたまへ』とまうす。皇后聞しめして、屋栖古の連の公に詔りて曰はく、『疾く此の像を隠せ』とのたまふ。連の公、詔を奉り、氷田の直をして稲の中に蔵(かく)さしむ。弓削の大連の公、火を放ちて道場を焼き、仏の像を将て難波の堀江に流す。屋栖古に徴りて言はく、『今、国家(みかど)に災を起すは、隣国の客神(まれひとがみ)の像を己が国の内に置けるに依る。斯の客神の像を出すべし。速忽(すみやか)に豊国に棄て流せ』といふ。客神は仏の神像なり。固く辞(いな)びて出さず。弓削の大連、狂ひたる心に逆を起し、傾けむと謀り便を窺ふ。
④爰に天亦嫌み、地復噁み、用明天皇のみ世に当りて弓削の大連を挫(とりひし)ぎつ。則ち仏の像を出して後の世に伝ふ。命もて吉野の窃寺に安置しまつりて、光を放ちたまふ阿弥陀の像是れなり。
現代語訳・解説
①主人公は、大部屋栖野古という大連です。大伴姓の先祖だと述べられていますね。彼は「三宝」を深く敬っていました。
*三宝:仏、法、僧
②伝記には次のような逸話があるといいます。
時代は敏達天皇の代。和泉国の海の中から楽器の音が聴こえました。昼は音が鳴っており、夜は光り輝いています。その音や光は東に向かって流れていました。
屋栖野古は、この噂を天皇に奏上します。しかし天皇は信じませんでした。皇后は「お前が実際に行って見て来なさい」と屋栖野古に命令します。実際に見ることができれば信じられますよね。(ちなみに敏達天皇の皇后は、推古天皇です)
屋栖野古が見に行くと、噂通り、「霹靂に当りし楠」がありました。「霹靂」は「雷」のことですね。
屋栖野古は帰って天皇・皇后にこの事実を奏上しました。そしてこう言います。「この樹で仏像を造りたく存じます」
*願はくば~べし:~したいと願う
皇后は、思うとおりにすればよいと仏像を造ることを許可します。
③屋栖野古は大喜びで島の大臣(=蘇我馬子)と協力し、菩薩像を三体作りました。しかし物部弓削守屋は、「仏像は国内に置くべきではない。遠くにやってしまうべきだ」と主張します。
蘇我氏 VS 物部氏の対立構造の軸として重要なもののひとつに、「崇仏派」か「廃仏派」か、というものが挙げられます。物部氏は廃仏派です。その背景からこの主張がうまれるわけですね。
皇后は、屋栖野古に「仏像をただちに隠しなさい」と詔します。そこで屋栖野古は仏像を隠すのですが、弓削守屋は、道場に放火して仏像を探し出し、海に流してしまいます。そして彼は、屋栖野古にこういうのです。
「今日本に災いが起こっているのは、隣国、百済国の像などを国の中に置いているからだ。ただちにその像を渡せ。そして捨てなさい」
これについては後述しますね。
しかし屋栖野古はこの要求を拒否し、仏像を差し出すことはありませんでした。弓削は逆上し謀反を起こす機会をうかがいます。
④しかし、そんな弓削の態度に神々は怒り、用明天皇の時代に彼を失脚させてしまいます。その後、隠していた仏像を取り出し、後世に伝えられました。
仏像は吉野の窃寺に安置されています。光を放っている仏像がこれなのだと締めくくられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、霊木によって造られた仏像と、それにまつわる蘇我氏と物部氏の対立を描いたエピソードでした。
「今日本に災いが起こっているのは、隣国、百済国の像などを国の中に置いているからだ。ただちにその像を渡せ。そして捨てなさい」
という弓削の言葉がありましたね。
これが物部氏の主張なのです。すでに日本には神々がいるにもかかわらず、異国の神を置いているから神が怒り、災いをもたらしているのだ、という思考回路なのですね。
ちなみにこの話の類話は、『今昔物語集』にも収録されています。
三宝とは仏・法・僧のことですが、今回はそのなかでも仏を信じた人間のお話が取り上げられていました。
次回は中編です。引き続き屋栖野古が登場しますよ。
それではまた次回!