説話徹底解説ブログ

「話の内容が分からないから古文はつまらない」そう思って投げだした経験はありませんか? 当ブログではそのような方のために説話の内容を簡単に、かつ明確に解説していきます。日本の原点である当時の説話文学を読んで、古典の世界に浸かってみませんか?

日本霊異記 上巻 嬰児の鷲に擒はれて他の国にして父に遭ふこと得し縁 第九

みなさんこんにちは!文です。

 

ゴールデンウィークも終わりましたが、やはり通勤の方が増えたようですね。

仕方のないことだとは思いますが、ぜひお体に気をつけてくださいね。

 

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日本霊異記は上から読めますよ!

 

それでは、本日のお話を読んでいきましょう!

 

ayanohakotonoha.hatenablog.com

 ↑前回のお話はこちらからどうぞ

 

 

本文

第一段落

飛鳥の川原の板葺の宮に宇御めたまひし天皇のみ世の癸卯の年の春の三月の頃に、但馬国七美郡の山里の人の家に、嬰児の女有りき。中庭に匍匐(はらば)ふときに、鷲り騰(あが)りて、東を指して翥(はふ)りいぬ、父母懇(あからし)びて、惻み哭き悲しび、追ひ求むれども、到る所を知らぬをもちて、故、為に福を修せり。八箇年逕て、難破の長柄の豊前の宮に、宇御めたまひし天皇のみ世の庚戌の年の秋の八月の下旬に、鷲に子をらえし父、縁の事有りて丹波の後の国加作郡の部内に至り、他の家に宿りき。

 

第二段落

其の家の童女、水を汲みに井に趣く。宿れる人、足を洗はむとして副(そ)ひ往きて見る。亦、村の童女も、井に集りて水を汲まむとして、家の童女の逬(注:しんにょう無)(つるべ)を奪ふ。惜みて奪はしめず。其の村の童女ら、皆心を同じくして凌ぎ蔑(あなづ)りて曰はく、「汝鷲の噉ひ残し、何の故ぞ、礼无き」といひて、罵り圧(おそ)ひて打ちき。拍(う)たれて哭きて帰りぬ。家主待ちて、「汝、何の故にか哭く」と問へば、宿れる人見しが如くに、具(つぶさ)に事を陳(の)ぶ。即ち彼の拍ち罵りて、鷲の噉ひ残しと曰へる所以を問ふ。家主答へて言はく、「其れの年の其れの月日の時に、余、鳩を捕らむとして登りて居しに、鷲、嬰児をり、西の方より来り、巣に落して雛に養(か)ひき。嬰児、慓(おそ)り啼く。彼の雛望て、驚き恐りて啄(つきは)まず。余、啼く音を聞きて、巣より取り下し育てし女子、是れなり」といふ。らへし年の月日の時は、挍(かむが)ふるに今の語に当りぬ。明かに我が児なりけりと知りぬ。

 

第三段落

(ここ)に父、悲しび哭きて、具に鷲のりし事を告げ知らせぬ。主の人、実なりと知り語に応へて許しつ。噫乎(ああ)、彼の父、邂逅(たまさか)に児有る家に次(やど)り、遂に是れを得たり。誠に知る、天の哀びて資(たす)くる所、父子は深き縁なりけりといふことを。是れ奇異しき事なり。

 

 

現代語訳・解説

第一段落

皇極天皇の時代の二年の春の三月の頃、但馬国七美郡の山里の人の家に、女の子の赤ん坊がいた。中庭で腹ばいをしていた時に、鷲が赤ん坊を捕えて空に飛びあがり、東へ向かって羽ばたいていってしまった。赤ん坊の父母は痛切に嘆き、強く胸を痛めて悲しく思い、赤ん坊を追って探したが、鷲の行ったところがわからなかったので、仏事を営んで赤ん坊の冥福を祈った。

それから八年後、孝徳天皇の時代の元年、秋の八月下旬に、鷲に赤ん坊を捕えられた父が、きっかけがあり、丹波国の加作郡に出かけ、ある人の家に泊まった。

 

 *飛鳥の川原の板葺の宮に宇御めたまひし天皇皇極天皇

 *嬰児=赤ん坊

 *難破の長柄の豊前の宮に宇御めたまひし天皇孝徳天皇

赤ん坊がさらわれてしまった時の様子を詳細に記述した段落ですね。

 

第二段落

その家の童女が、水を汲みに井戸に赴いた。家に泊まった人は、足を洗おうと彼女に付いていった。また、村の童女たちも水を汲もうとして、女の子の水汲み樽を奪い取ってしまった。童女は樽を奪われまいと抵抗した。

其の村の童女たちは、皆一同に彼女を蔑んで罵った。「あんたは鷲の食べ残し。なんでそんな礼知らずなことするの」そういって女の子を罵り暴力をふるった。彼女は泣きながら家に帰った。

家の主が、「どうして泣いているんだ」と問うと、泊まっていた者が、見ていたことを具体的に話した。そして彼は、どうして女の子がぶたれて罵られ、鷲の食べ残しと言われえるのかを尋ねた。

家主はこう答えた。「それそれの年のそれそれの日に、私が鳩を捕まえようと木に登ると、鷲が赤ん坊を捕えて、西の方角から来て、巣に落して雛のエサにしようとしたのです。赤ん坊は恐がって泣いていました。雛は泣き叫ぶ赤ん坊をみて恐れ、食べようとはしませんでした。私はその泣く声を聞いて巣から下ろし、女の子を育てたのです。それがこの子です」

男が赤ん坊を鷲にさらわれたのと、年月が一致した。間違いなく我が子なのだとわかった。

 

前半は、女の子がその不思議な境遇から村の子供たちからいじめを受ける場面です。或る意味子供らしい言葉の言い回しなどが見て取れますね。

後半は、父親がその女の子を自分の子どもだと確信する場面です。

 *具に=具体的に、詳細に、詳しく

 

第三段落

そこで父親は悲しみ泣きながら、我が子を鷲にさらわれた時のことを詳しく語った。家主はそれが本当の事なのだと知り、娘と住みたいという男の要請に応じて許可した。ああ、女の子の父親は、偶然自分の子どものいる家に宿り、ついに娘との再会を果たした。これは天が憐れんで助けてくれたのだ、誠に父子の縁が深いことがわかる。これは不思議な話である。

 

景戒によるまとめです。このお話で言いたかったのは、「父子は深き縁なりけり」のところですね。たとえ離れていても、偶然の産物ではありますが再会を果たします。これは、彼らの縁が深かったということを示しているのです。

着目したいのは、地の文に「噫乎」と詠嘆表現が使われていることです。基本的には有り得ない使われ方ですが、この部分が景戒の心情である、ということを押さえられれば理解がしやすいでしょう。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

比較的読みやすい話だったのではないでしょうか?

 

今回は親子の感動的な再会を描いた話でした。

 

そしてその再会は、親子の深い縁にあると筆者は分析します。

 

仏教において親子とはとても尊いものとして描かれることが多いですね。家族を大切にしなかったものが報いを受けたり、悪人が親子を大切にしたがために救われたり、ということもあります。

 

このようなお話もしっかり頭に入れておきましょう!

 

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