説話徹底解説ブログ

「話の内容が分からないから古文はつまらない」そう思って投げだした経験はありませんか? 当ブログではそのような方のために説話の内容を簡単に、かつ明確に解説していきます。日本の原点である当時の説話文学を読んで、古典の世界に浸かってみませんか?

日本霊異記 上巻 女人の風声なる行を好みて仙草を食ひ、現身を以て天を飛びし縁 第十三

みなさんこんにちは!文です。

 

今回読んでいくのは、日本霊異記上巻において、初めて女性に焦点を当てた説話です。思い返してみれば、女性が主人公の説話はまだ出て来ていませんでしたね。

 

 

ayanohakotonoha.hatenablog.com

 ↑前回のお話はこちらから!

 

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本文

第一段落

倭国宇太郡漆部の里に、風流なる女有りき。是れ即ち彼の部内の漆部の造麿が妾(をむなめ)なりき。天年に、風声に行を為し、自悟(ひととなり)、塩醤(まさなること)を心に存せり。七たりの子産れ生ふ。極めて窮(せま)りて食无く、子を養(ひだ)さむに便无し。衣无くして藤を綴る。日々に沐浴して身を潔め、綴れを著(き)たり。野に臨む毎に、草を採るを事とす。

 

第二段落

常には家に住りて家を浄むるを心とす。菜を採りては調へ盛り、子を唱(よ)び端坐して、咲(ゑみ)を含み馴れ言ひ、敬を到して食ふ。常に是の行を以て身心の業とせり。彼の気調恰も天上の客の如し。

 

第三段落

是に難破の長柄の豊前の宮の時の甲寅の年に、其の風流なる事、神仙に感応し、春の野に菜を採みしときに、仙草を食ひて天を飛びき。

 

第四段落

誠に知る、仏法を修せずとも風流なるを好めば、仙薬の感応することを。精進女問経に云へるが如し。「俗家に居住すとも、心を端(ただ)しくし、庭を掃(はら)へば、五功徳を得む」と者へるは、其れ斯れを謂ふなり。

 

 

 

現代語訳

第一段落

倭国の宇太郡の漆部の里に、高潔なふるまいをする一人の女がいた。彼女は同じ漆部の造麿の妾であった。彼女は生まれた時から高潔で、料理などにも心をかけていた。そして彼女は七人の子供を産み育てた。家はとても貧乏で食べるものも無く、子どもを育てようにもどうしようもなかった。また着るものも無く、藤の木を織って服を作っていた。そして毎日水浴びをして身を清め、着物を身に付けていた。野に行くごとに野草を採って帰ることも習慣としていた。

 

第二段落

彼女は、ふだん家にいる時には、家をきれいにすることを大切にしていた。野草を採っては調理して盛り付け、子どもたちを呼んで座らせて、笑みを浮かべて仲睦まじく会話をし、食物に感謝をしながら食べた。彼女はつねにこのような行動を心にかけ、普段の習慣としていた。その姿はまるで、天上の者のようであった。

 

第三段落

さて、孝徳天皇の甲寅の時代に、彼女の其の高潔な姿振舞いが神仙に通じたのであろう、春に野原に行って野草を採っている際、仙草を食べて天に登っていった。

 

第四段落

仏法を修めることは無くても、高潔なふるまいを徹底していれば仙草がこれに感応するということがよくわかる話である。『精進女問経』によると、「俗の家に住んでいても、正しい心を持ち、庭を掃けば五功徳を得られる」のである。これは、このようなことをいうのである。

 

其れ斯れを謂ふなり」まとめでの指示語は、もう恒例になってきましたね。この場合は、たとえ生まれがどこであろうと正しい心を持ち続けて行ないをしていれば五功徳を得ることができる、という直前の【例示】と同じ部分を探せばいい訳です。

本話の場合は、主人公である女性のエピソードがまさしくそれです。したがって、「この女性の話のようなこと」というように簡単に解釈すればよいでしょう。

ちなみに五功徳と言うのは、往生後に受けることのできる五つの福徳のことです。興味のある方は内容も調べてみてください(ここで扱うには重めのテーマなので……)。

 

 

まとめ

どんなときでも常に高潔なふるまいをする女性のお話でした。

 

彼女は貧しいながらも、清らかな心を持ち続けることは忘れず、常に「善い」心がけをしていたところ感応があり、仙人となっていきました。

いきなり仙人になる、という描写が古文っぽさを演出していますね。

 

本話はここ数話で主流だった、前世からの「現報」というところから一歩外れて、現世での行いが現世で結ばれるというお話でした。

 

この話を境に、だんだんと収録されている説話の様相も変わっていきますよ。

 

それではまた次回お会いしましょう。

 

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