日本霊異記 上巻 悪人の乞食の僧を逼して、現に悪報を得し縁 第十五
こんにちは!文です。
第十三話から、少しだけ話の流れの方向性が変わってきていますね。
現世の行いが現世で報いとして現れる、という方向性です。
今回の話はどうでしょうか?
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本文
第一段落
昔、故の京の時に、一の男人有りき。因果を信とせず。僧の乞食するを見て、忿(いか)りて撃たむと欲ふ。時に僧、田の水に走り入る。追ひて之を執ふ。僧、忍ぶること得ずして、以て之を咒縛(じゆばく)せり。愚人顚沛(たふ)れ、東西に狂ひ走る。僧即ち遠く去れり。眄瞻(かへりみ)ること得ず。
第二段落
其の人に二の子有り。父の縛(ゆはひ)を解かむことを欲ひ、便ち僧房に詣(いた)りて、禅師を勧請す。師、其の状を問ひ知りて、行き肯(かへ)にす。二の子懃(ねもころに重ねて拝み敬ひ、父の厄を救はむことを請ふ。其の師、乃ち徐(やや)く行き、観音品の初めの段を誦じ竟(をは)れば、即ち解脱すること得つ。然る後に乃ち信心を発し、邪を廻らし正に入りき。
現代語訳
第一段落
昔、もとの都の時(平城京以前)に、一人の男がいた。因果の理を信じていなかった。彼は、僧が乞食となって修行をしているのをみて、腹が立って殴ろうとした。すると僧は、田んぼの中に走って入った。すると男はこの僧を追って捕まえた。僧は我慢できず、男を呪文によって縛り上げてしまった。この愚か者はひっくり返ってしまい、あちこち狂ったように走り回った。僧はすぐに遠くに去ってしまった。誰も男の世話をすることができなかった。
第二段落
その愚か者には二人の子供がいた。父の呪縛を解こうと思い、すぐに僧の住処に向かって、禅師に頼み込んだ。禅師は事の様を尋ねて理解し、行くことをことわった。二人の子供たちは心を込めてお願いし、父の災厄を救うことを頼んだ。その禅師はようやく腰をあげ、『妙法蓮華経』の初めの段を唱えると、すぐに男は囚われから逃れた。その後男は信心を起こし、邪な心を一転させて正しい道に入った。
解説
いかがでしたでしょうか。
今回は、僧に悪事を働いた男が悪報を受けるという話でした。
そしてその男を救おうとしたのは、なんとその男の子供たち。
話の流れとしては、神聖な存在である僧を迫害すると悪い報いを得る、ということを言いたいことは明白です。
しかし、子どもの存在についても注目するべきであると思っています。
当サイトでは、
ayanohakotonoha.hatenablog.com
この記事で解説したように、日本霊異記には
「行いの縁」と「家族の縁」
の2つのテーマがあると考えています。
今回の話にも、その2つのテーマが根底に流れているということを読み取りましょう。
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