説話徹底解説ブログ

「話の内容が分からないから古文はつまらない」そう思って投げだした経験はありませんか? 当ブログではそのような方のために説話の内容を簡単に、かつ明確に解説していきます。日本の原点である当時の説話文学を読んで、古典の世界に浸かってみませんか?

日本霊異記 上巻 兵災に遭ひて、観音菩薩の像を信敬したてまつり、現報を得し縁 第十七

こんにちは、文です!

 

前回のお話は、現世での悪行が現世の間に報いとして現れるというお話でした。

今回はいったいどのようなお話でしょうか?

 

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本文

第一段落

伊予国越知郡の大領の先祖、越智直、当に百済を救はむが為に、遣はされて到り運(めぐ)りし時に、唐の兵に偪(やぶ)られ、其の唐国に至りき。我が八人同じく洲に住む。○として観音菩薩の像を得て、信敬し尊重したてまつる。八人心を同じくして、竊に松の木を截りて以て一舟を為る。其の像を請け奉りて、舟の上に安置し、各誓願を立てて、 彼の観音を念じたてまつる。爰に西風に随ひて、直ちに筑紫に来れり。

 

第二段落

朝庭(みかど)之を聞きて召して、事の状を問ひたまふ。天皇、忽に矜(あはれ)びて、楽(ねが)ふ所を申さしめたまふ。是に越智直言さく、「郡を立てて仕へまつらむ」とまうす。天皇許可(ゆる)したまふ。然る後に郡を建て寺を造りて、即ち其の像を置けり。時より今の世に迄るま で、子孫相続ぎて帰敬したてまつる。

 

第三段落 

蓋し是れ観音のカにして、信心之を至せるならむ。丁蘭の木母すら猶し生ける相(すがた)を現じ、僧の感ずる画女すら尚し哀形に応へき。何にか況や是の菩薩にして応へたまはざらむや。

 

 

 

現代語訳

第一段落

伊予国越智郡の大領の先祖である越智直は、百済を救うために派遣された。各地を巡っていたときに、唐国の兵に敗れて唐にたどり着いた。我等が日本人が八人、同じ島に住む。

仲間同士で観音菩薩の像を手に入れて、これを信仰しあがめ奉っていた。八人は心を同じくして、隠れて松の木を伐って一つの舟を造った。その像を船の上に安置し、それぞれ誓願を立てて国に帰れるように願った。

すると西風が吹いてきて、これに乗ってすぐに筑紫国に来たのだった。

 

第二段落

朝廷はこれを聞いて、事情をお尋ねになった。天皇は哀れに思って、越智直等八人に、望むところを申すようにおっしゃった。そこで越智直がいうことには、「郡を造ってそこに蔵を安置し、仕えたいと思います」と申し上げた。天皇はそれを許可しなさった。

その後に軍を新たに設けて寺を造り、そこに八人を救ってくれた像を置いた。その時から今に至るまで、越智直の子孫は相次ぐこととなり、この像を信仰している。

 

第三段落

思うにこれは観音の力によるものであり、信仰心がこれらの奇跡を達成させたものなのであろう。丁蘭の木母すら生きているような姿を示し、僧が心を寄せた絵の中の女すら哀しい訴えに応えた。ましてや観音菩薩は、どうして応えないことがあろうか、いや決してそんなことはない。

 

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

 

今回は、捕虜として連れていかれた越智直たちが、手に入れた観音菩薩像を信仰し続けたことで日本に帰ることができたというお話でした。

 

そしてその越智直は新しく作られた郡に観音菩薩を安置し、子孫も含めて永く繁栄しました。

 

これも全て観音菩薩の感応なのですね。

 

この話から、仏教を信仰することの利益を説いています。仏教説話集らしいお話でした。

 

ちなみにですが、「丁蘭の木母」というのは『孝子伝』にあるお話です。

丁蘭と言う人が亡き母の木像を造って仕えており、妻が誤って傷つけると本当に肌から血が出てしまったという話です。

 

今昔物語集』にこの話が収録されています(巻第九)。

 

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