説話徹底解説ブログ

「話の内容が分からないから古文はつまらない」そう思って投げだした経験はありませんか? 当ブログではそのような方のために説話の内容を簡単に、かつ明確に解説していきます。日本の原点である当時の説話文学を読んで、古典の世界に浸かってみませんか?

日本霊異記 上巻 幼き時より網を用ちて魚を捕りて、現に悪報を得し縁 第十一

みなさんこんにちは!文です。

 

今日はなんだかうっとうしい天気ですね。

じめじめしていて何となく気持ち悪いです。

 

さて、本日は第十一話を読んでいきます。

とっても短い説話なので読みやすいと思いますよ!

 

今回も「悪報」という言葉がタイトルにみえますね。

いったいどのような報いがあったのか、どのような経緯でそれを受けたのか、に着目して読んでいきましょう!

 

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日本霊異記はこちらから! 

 

 

ayanohakotonoha.hatenablog.com

 ↑前回のお話はこちらから!

 

 

本文

第一段落

幡磨国餝磨(しかまの)郡の濃於(のお)寺にして、京の元興寺の沙門慈応大徳、檀越(だにをち)の請に因りて夏安居し、法花経を講じき。

 

第二段落

時に寺の辺に漁夫(いをとりのをのこ)有りき。幼きときより長(ひととな)るに迄(いた)るまで、網を以て業とせり。後時に、家の内の桑の林の中に匍匐(はらば)ひ、声を揚げ、叫び号(おわ)びて曰はく、「炎火(ほのほ)身に迫れり」といふ。親属救はむとすれば、其の人に唱ひて、「我に近づくこと莫れ。我頓に焼けむ」と言ふ。時に、其の親、寺に詣で、行者を請け求めき。行者咒(じゆ)する。時に、良久にありて乃ち免る。其の著(き)たる袴焼けたり。漁夫、悚ぢ慄る。濃於寺に詣り、大衆の中にして罪を懺(く)い、心を改め、衣服等を施して経を誦せしむ。竟に此れより以後、復、悪を行はず。

 

第三段落

顔氏家訓に云へるが如し。「昔、江陵の劉氏、鱓(なかて)の羹を売るを以て業とす。後に一児を生むに、頭具に是れ鱓なり。頸より以下は方に人の身と為る」と者へるは、其れ斯れ謂ふなり。

 

 

現代語訳

第一段落

幡磨国餝磨郡にある濃於寺で、都の元興寺の僧である慈応大徳が、檀家の者の要請によって夏安居を行い、法華経の講義をした。

 

夏安居」という耳慣れない言葉が出てきました。これは仏教用語の一つで「夏に僧が一つの場所に籠って修行をすること」です。仏教的に深い意味のある言葉ですが、今はあまり関係がないのでこのまま読み進めましょう。

慈応大徳は、夏安居をする傍らで法華経の講義にも励みます。

 

第二段落

その頃、寺の近くに漁師がいた。幼い時から大人になるに至るまで、網で魚を捕ることを生業としていた。

後のある時、漁師は家の中の桑林のなかを這いつくばって、声をあげ、「炎が迫ってくるのだ」と叫んでいた。親族の者が助けようとすると、漁師はその者に向かって「私に近づいてはいけない。今にも焼け死んでしまいそうだ」と言う。そこで親は寺に参拝し、夏安居中の慈応大徳を求めた。僧が経文を唱えると、少し経ってようやく漁師は火から逃れた。彼の着ていた袴は焼けていた。漁師は恐れおののいた。

そこで濃於寺に参拝し夏安居中の僧侶の中に交ざって、罪を悔い、心を改めて衣服を納めて経を読んでもらった。これより以後、彼は悪を行わなかった。

 

第一段落で主人公かと思われた慈応大徳はサブキャラでした。本当の主人公は、この漁師ですね。漁師が悪報を受ける、いわば罪人として描かれています。彼がどのような罪を犯したのかわかりますか?

 

第三段落

『顔氏家訓』にはこのように記されている。

「昔、江陵の劉氏は、ウナギの吸い物を売るということを生業にしていた。後に彼に子どもが生まれたが、頭がどうみてもウナギの形をしていた。首から下は人間の者であったという」

まさに漁師の話と同じであり、これこれをいうのである

 

第二段落の話を強化するために引用された、江陵の劉氏の話が印象的です。これによって、漁師の罪がはっきりとしてきますね。

要するに、漁師として魚を捕っていた(=殺していた)ことが殺生罪であるということなのです。仏教では、生きとし生けるものは全て平等であるのでその命を奪うと殺生になります。なので漁師は報いを受けて炎に襲われたのですね。

また、この話の最後は「これこれをいうのである」と非常に曖昧な締め方をされています。指示語ばっかりでなんのこっちゃわからないですね(笑)。

この解釈は話の流れをしっかりと追うことができていれば難しくありません。二つのエピソードに共通しているのは、生き物を殺すと罰を受ける、ということです。なので「殺生は罪であるということをいうのである」と解釈すると良いでしょう。

 

 

まとめ

いかがでしたか?

 

よくまとまったお話でしたね。地獄の炎に焼かれそうになる描写は、文章のみながら迫力満点で思わず身震いしてしまいそうになります。

 

このお話では殺生の罪について描かれていました。今回は悪報という形で罪を説いていましたが、別の方法で説かれる説話もありますので他の説話も是非読んでみてください!

 

また本話は、結びが「其れ斯れ謂ふなり」と非常に曖昧でした。今回は二つのエピソードを比べて共通のメッセージを探る、ということをやりましたが、このような考え方は古文読解で非常に役立ちます。

古文は指示語のオンパレードで、非常に伝わりずらい書き方がされているものが多くあります。そんな時は冷静に話を読み進め、指示語が指しているものが何なのか、きっちりと押さえていきましょう。

 

 

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