説話徹底解説ブログ

「話の内容が分からないから古文はつまらない」そう思って投げだした経験はありませんか? 当ブログではそのような方のために説話の内容を簡単に、かつ明確に解説していきます。日本の原点である当時の説話文学を読んで、古典の世界に浸かってみませんか?

日本霊異記 上巻 電の憙を得て、生ましめし子の強力在りし縁 第三 前半

みなさんこんにちは!文です。

 

新型コロナウイルスの影響で明日には緊急事態宣言が出されるとか……。皆さんくれぐれも体調にはお気を付けください。不要不急の外出はだめですよ!!

 

さて、『日本霊異記』シリーズも第三話です。前回(https://ayanohakotonoha.hatenablog.com/entry/2020/04/05/191316?_ga=2.199414766.153100430.1586077962-1523123766.1576563918

は狐のお話でしたね。第二話はこちらからどうぞ!

 

今回はどのようなお話なのでしょうか。本話は長いので前後半に分けます。

 

さっそく読んでいきましょう!

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①昔、敏達天皇是は磐余の訳語田(をさだ)の宮に国食しし淳名倉太玉敷(ぬなくらふとたましき)の命ぞ。の御世に、尾張国阿育知郡(あゆちのこほり)片蕝(かたわ)の里に一の農夫有りき。作田に水を引く時に、少雨降雨るが故に、木の本に隠れ、金の杖を棠(注:手遍)きて立てり。時に電(いかづち)鳴りき。即ち恐り驚き金の杖を擎(ささ)げて立てり。

②即ち、電、彼の人の前に堕ちて、小子と成りて、其の人、金の杖を持ちて撞かむとする時に、電の言はく、「我を害ふこと莫れ。我汝の恩に報いむ」といふ。其の人問ひて、「汝、何をか報いむ」と言ふ。電答へて言はく、「汝に寄せて、子を胎ましめて報いむ。故に、我が為に楠の船を作り、水を入れ、竹の葉を泛べて賜へ」といふ。即ち、殿の言ひしが如くに作り備けて与えつ。時に、電言はく、「近依ること莫れ」といひて、遠く避らしむ。砂割り愛(くも)り霧(きら)ひて天に登りぬ。然る後に産れし児の頭は、蛇を二遍纏ひ、首・尾を後に垂れて生る。

③長大(ひととな)りて、年十有余(あまり)の頃に、朝庭(みかど)に力人有りと聞きて試みむと念ひ、来りて大宮の辺に居り。爾(ここ)に、時に臨みて王有りて、力秀れたり。当時大宮の東北の角の別院に住めり。彼の東北の角に、方八尺の石有り。力ある王、住める家より出でて、其の石を取りて投ぐ。即ち住処に入りて門を閉ぢ、他人を出入せしめず。

④少子視て念へらく、「名の聞えたる力ある人は是れなり」とおもひ、夜に人に見らえずして其の石を取り、一尺投げ益(まさ)れり。力ある王見て、手拍ち攢(たを)みて、石を取りて投ぐ。常より投げ益ること得ず。小子、亦、二尺投げ益れり。王見て二たび投ぐれども、猶し、益ること得ず。少子の立ちて石を投げし処は、小子の跡の深さ三寸み入り、其の石も亦三尺投げ益れり。王、跡を見て、是に居る小子の石を投げたるなりと念ひ、捉へむとして依れば、即ち少子逃ぐ。王追へば少子逃ぐ。王追へば、少子墻より通りて逃ぐ。少子亦返る。王墻の上より踰えて追へば、墻より亦通りて迯(に)げ走る。力ある王も、終に捉ふること得ず。我より力益れりと念ひて、更には追はず。

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①例にもよって設定を確認していきますと、時代は敏達天皇尾張の国での出来事です。ある農夫が登場人物ですね。注意してほしいのは、この農夫は主人公ではありません!最初に登場するからと言って主人公になるとは限りませんので注意しましょう。

この農夫が雨宿りをしていると、雷が轟きます。第一話(

https://ayanohakotonoha.hatenablog.com/entry/2020/04/05/191316?_ga=2.199414766.153100430.1586077962-1523123766.1576563918

)を思い出しますね(笑)。農夫はとっさにもっていた鉄の杖を振り上げます(殺す気満々……)

 

②すると雷は子どもの姿をして落ちてきます。杖で雷を殺そうとすると、雷は命乞いをします。そして「報いをする」というのです。農夫は雷に、その内容を尋ねます。するとなんと、「子どもを授ける」というのです。こういう時は、大抵その人の一番望むものを与えますから、農夫の奥さんには子供ができなかったのでしょうね。

そして、そのためにも楠の舟を造ってほしいと農夫に頼むのです。

ちなみにですが、ここはどうして楠だったのでしょうね?昔から樹には神が宿るとされており木の神は舟にのって移動するという民俗学研究もあるのですが、「楠」というのがどうもピンときません。何か意味があるはずなので、考えのある方はぜひご一報ください。

さて話をもどしまして、楠の舟を与えたところ雷は帰っていきます。そして約束通り農夫には子供が生まれました。しかしその子供の頭には蛇が巻き付いており、頭としっぽが垂れているという、人間とは思えない風貌だったのです。明らかに人間同士の子どもではないことが分かります。イエス・キリストも突如身ごもった子どもであったといわれていますが、そのような類いと考えればよいのではないかと思います。

ちなみに、今回の主人公はこの子供です。

 

③そして子供は十歳となります。その頃、朝廷に力の強い人がいると聞き力比べをしたいと思っていました。そのためわざわざ大宮の近くに住むという徹底ぶり。

そしてその「力人」とは大君でした。彼は大宮の東北の隅にある別棟に住んでいましたが、その東北の角に八尺の石がありました。一尺はだいたい30cmなので、約2.4m。とても大きいことが分かります。するとなんと王は、自分の家からその石を投げてしまうのです。

 

④子供はその石をみて、自分の探していた「力人」とはこの人なのだと確信します。そして競争の為に、夜にその石を投げ返してしまうのです。しかも「投げ益れり」との表現から、一尺分も遠くに投げたということが分かります。

そして王は、投げ返された石を発見し「手拍ち攢みて」すなわち「手をたたいたり準備運動をしたりして」、石を投げます。しかし、子どもに勝つことはできませんでした。

また子供は石を投げ返します。しかも今度は二尺も遠くに投げます。再び王は投げ返しますがやはり勝つことはできません。

すると王は、石が投げられた場所にある小さな足跡を発見します。そしてこの石を投げ返しているのはこの家に住んでいる子供なのだということに気付きました。そして子供を捕えようとします(捕えたところでどうにもならない気はしますが……)

ここからは子供と王の追いかけっこが始まります。短文が連続しており、その「戦い」の小気味よさが上手く演出されています。しかし、やはり雷の子供は身体能力が突出している様子。王は全く捕まえることができません。

結局王は捕まえることができず、「我より力益れり」と子供の力を認めてそれ以上は追うことがありませんでした。

 

いかがでしたでしょうか。第三話の前半部分をお送りしました。

これはいわゆる「強力譚(ごうりきたん)」と言われるものですね。このようなお話は他にもかなりあります。中世の代表的な説話集『古今著聞集』にも「相撲強力」という章がわざわざ建てられており、相撲譚や強力譚がたくさん収録されているんですよ。それほど、このような「力比べ」が当時の重要な遊戯であったということが想像できますね。

 

また、本話は雷神が出てきたり、異類との子どもの異常な能力を示していたりと、前回・前々回の説話との関連性がうかがわれます。説話集は、其の個々のお話ももちろんですが、配列順にも作者のこだわりが色濃く表れていることが多く、そのような観点から読んでみるのもとても面白いと思います!

 

つづきはまた明日更新します!それではまた次回お会いしましょう。