説話徹底解説ブログ

「話の内容が分からないから古文はつまらない」そう思って投げだした経験はありませんか? 当ブログではそのような方のために説話の内容を簡単に、かつ明確に解説していきます。日本の原点である当時の説話文学を読んで、古典の世界に浸かってみませんか?

日本霊異記 上巻 聖徳皇太子の異しき表を示したまひし縁 第四 後半

こんにちは!文です。

 

本日は連続投稿です。前回のお話の後半にあたります。

 

ayanohakotonoha.hatenablog.com

 ↑前回のお話はこちらからどうぞ!

 

今回は、後半ということもありとても短いエピソードです。

サクサク読んでいきましょう!

 

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⑤又、藉(しやく)法師の弟子円勢師は、百済の国の師なりき。日本の国大倭国の葛木の高宮寺に住みき。時に一の法師有りて、北の坊に住みき。名を願覚と号ふ。其の師、常に明旦(あした)に出でて里に行き、夕を以て来りて坊に入りて居り。以て(これをも)て常の業とせり。時に円勢師の弟子の優婆塞見て師に白す。師言はく、「言うこと莫れ、黙然れ(もだあ)れ」といふ。優婆塞、窃に坊の壁を穿ちて窺へば、其の室の内、光を放ちて照り炫く。優婆塞見て復師に白す。師答へて言はく、「然有るが故に、我汝を諫めて言うこと莫れといひしなり」といふ。然して後に願覚忽然(たちまち)に命終しぬ。時に円勢師、弟子の優婆塞に告げて、「葬りて焼き収めよ」と言ふ。即ち師の告を奉りて焼き収め訖りぬ。然る後に、復其の優婆塞、近江に住みき。時に近江の有る人、「是に願覚師有り」と言ひき。即ち優婆塞往きて見るに、当に実の願覚師なり。優婆塞に逢ひて談りて言はく、「此頃謁(つかへまつ)らずして恋ひ思ふること間无し。起居安からず」といふ。当に知れ、是れ聖の反化なりといふことを。五辛を食ふは仏法の中の制にして、聖人用ゐ食へば罪を得る所无からまくのみ。

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⑤円勢は、百済からきた僧でした。彼は大和国の高宮寺に住んでいました。

またその頃、一人の法師がいて北にある僧坊に住んでいました。名前を願覚といいます。願覚は、いつも朝に出発して里に行き、夕方に帰ってきて僧坊に入るということを繰り返していました。

 

ある時、円勢の弟子の優婆塞が願覚の行動を目にしました。「優婆塞」は「在家のままで、仏道修行にはげんでいる人」のことです。頻出なので覚えておきましょう。

彼はその行動を円勢に報告します。しかし円勢は「これは誰にも言うな。黙っておきなさい」と伝えました。前回の聖徳太子を彷彿とさせますね。

しかし優婆塞は言いつけを守らず、隠れて僧坊の壁に穴をあけて見ると、その部屋のなかは光を放って輝いていました。優婆塞はこの状況を再び円勢に報告します。円勢は「だから誰にも言うなと言ったのだ」と言いました。

 

後に願覚は突然亡くなってしまいます。円勢は優婆塞に、「火葬して葬りなさい」と命じます。その通り彼は、願覚を火葬しました。

その後、優婆塞は近江国に引っ越します。その地で、ある人が「ここに願覚さんがいるのですよ」というのです。見に行ってみると、本当に願覚がいます。びっくりですよね!優婆塞がその手で確かに火葬した願覚が目の前にいるのですからね。

そして願覚は優婆塞に、「しばらく会えずにいたので落ち着けませんでした」というのです。

 

最後は筆者の解説文です。

この願覚は、聖人の生まれ変わったものであるということが明白だといいます。五辛(=にんにく、ねぎ、にら、らっきょう、あさつき)を食べるのは仏法で禁止されているが、聖人がこれを食べても罪を得ることはないのです。

 

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いかがでしたでしょうか?エピソード②は円勢と願覚、優婆塞の三人が主な登場人物です。聖徳太子、出てこなかったですね(笑)

 

エピソード①と②の共通ワードとして、1つは「聖人」が挙げられるでしょう。死んだと思われていたのに実は生きているという点で、①の乞食と②の願覚は共通していますね。

 

もしてもう一つの共通ワードとして挙げたいのは「慧眼」です。これは聖徳太子と円勢についてのキーワードですね。どちらも、実は聖人だった乞食と願覚の本質を見破っています。太子の臣下や円勢の弟子の優婆塞は、凡人であるためにそれを見抜くことは出来ませんでした。

仏教に長けた聖徳太子や円勢ほどの人物は、慧眼で物事を見通す力がある、というのがこの説話のメッセージであると思われますね。

 

それにしても、この話のまとめが五辛についてなのがよくわかりません……。『日本国語大辞典』では「五辛」について「仏教では、色欲や怒りの心などが刺激され助長されるとして、僧尼がこれらを食べることを禁じた」と解説されています。

それはわかるのですが、聖人たちが五辛を食べる描写、なかったですよね? よくわからないところであります。

 

何かわかる方がいらっしゃればぜひコメント欄にてお願いします!

 

それではまた次回お会いしましょう!